大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和36年(ネ)199号 判決

控訴人 中国四国寺岡はかり販売株式会社

右代表者代表取締役 北沢良二

右訴訟代理人弁護士 宗政美三

被控訴人 前座初太郎

被控訴人 佐藤兼吉

右両名訴訟代理人弁護士 秋山光明

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人等は各自控訴人に対し金三〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年六月一七日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを四分し、その三を控訴人の負担とし、その一を被控訴人等の連帯負担とする。

事実

≪省略≫

理由

訴外中田英男が昭和三三年一一月二一日控訴会社に自動車運転手として雇われるに当り、被控訴人等がその事実を知つて、成立に争のない甲第二号証誓約書を差し入れたことは、弁論の全趣旨に照らし、当事者間に争なく、右書証と原審証人北沢碩の証言を綜合すれば、被控訴人等は当時控訴会社との間に中田英男と連帯して、期間を定めず、同人の責に帰すべき事由により控訴会社の受くべき一切の金銭上の損害を賠償する旨の身元保証契約を結んだことを認めることができる。

被控訴人等は右契約において被控訴人の保証すべき範囲は、特に使い込み等の金銭上の過誤によるものに限られると主張し、前示誓約書には金銭上の過誤のあつた節は一切の義務に任ずる旨の記載があるに止るところ、身元保証というのは身元保証に関する法律一条にも規定しているように被用者の行為によつて使用者の受けた損害を賠償するものであるから、右誓約書の趣旨とするところは要するに横領、窃盗等による場合は勿論、身元本人の職務執行中その責に帰すべき事由により控訴会社に加うることあるべき一切の金銭上の損害をも賠償するにあるものと解するを相当とすべく、したがつて右誓約書によつては被控訴人等主張事実を肯認するに足りない。又被控訴本人前座初太郎(原審)、同佐藤兼吉(当審)はいずれも被控訴人等主張に副う供述をしているが、右各供述によつても、被控訴人等は控訴会社に対し、保証すべき範囲を限定しなかつたのであるから、その範囲は前示誓約書に表示されたところによるべきである。

成立に争のない甲第一号証に原審証人中田英男と前顕証人北沢碩の各証言を総合すれば、中田英男は控訴人主張の日に、同会社のセールスマン五名同乗の自動車を運転していたが、所用のため一時停車し、中田は自動車の荷台に上り、荷物の整理をしていた間に、同乗していた訴外橋口一成が運転席に座つて、運転する態勢にあつたにかかわらず、中田は一〇〇米位も運転すれば橋口は交替してくれるものと軽信し、何等阻止することなく、後の座席に座つて黙認していたところ、橋口は三ないし五キロ米位運転進行中控訴人主張の事故ならびに損害が発生したことを認めることができる。

右認定の事実によれば、橋口一成は過失により控訴会社の自動車を破損させ、よつて一四〇、〇〇〇円の修理代金相当の損害を蒙らしめたものであるから、これが賠償責任あるは勿論、中田英男は自動車運転手であつて、本来自己が運転すべきにかかわらず、任務を怠り、橋口の運転を何等阻止することなく、黙認していたのであるから、前記損害の発生につき少くとも過失による責任あるを免れず、右損害を賠償する義務あるものというべきである。

被控訴人等は身元本人中田英男に賠償義務はないとるる陳弁するけれども、自動車運転手は自動車の運転について全責任を負うべきものであり、橋口一成が運転免許を有したことは後に認定するとおりであるが、当時橋口が運転免許証を所持していた証拠はなく、従つて中田としては橋口に運転を許すべきでなく、中田英男の証言によつてもこれを阻止することができなかつたものとは認められない。前記北沢碩の証言によれば、控訴会社において中田英男を採用するにあたり、自動車の運転については運転手が全責任を持つことを条件としているのであるから、同人に賠償義務がないとはいえず、又本件発生について必ずしも会社に過失があつたものともいえない。

よつて被控訴人等の保証責任の限度について判断する。

前掲甲第二号証、証人中田英男、被控訴人両名の各供述を綜合すれば、被控訴人等は身元本人中田英男と親戚等格別の関係もなかつたが、近所の知合であつた縁故で中田が就職するに当り、同人が甲第二号証誓約書を持参し、保証人になつてくれと依頼したので、一覧の上、中田が採用されればよいと単純に考えて連帯保証人欄に署名捺印した上これを中田に渡し、同人を介して控訴会社に差し入れたものであり、同証書には「貴社の諸規則を遵守し、指示に従い云々」と記載してあるところ、諸規則を見せられたこともなく、控訴会社と直接には何等の話合もしなかつたので、指示も受けたことがなかつたのみならず、会社においても被控訴人の資産等の調査をした形跡のないことが認められ、右事実と本件事故が同乗していた控訴会社の社員橋口一成の運転によつて生じた事実、殊に前認定のとおり中田英男が荷物を整理していた間に橋口は運転席に座つており、中田が運転してくれと頼んだものでなく、中田は間もなく交替してくれるものと思つていた事実、中田英男の証言により認められる橋口一成が大型自動車の運転免許を受け、自動車運転の経験があると中田に話しており、橋口が先輩社員であり、年長者でもあつて、中田として橋口の運転を阻止することを幾分ためらつた事実、ならびに控訴会社としては直接事故を起した橋口には自動車の運転には責任がないからという理由で損害賠償請求をしていない事実、その他一切の事情を斟酌し、被控訴人等は各自控訴会社に対し金三〇、〇〇〇円およびこれに対する損害の発生した後である昭和三四年六月一七日以降完済まで年五分の割合による金員を支払うべき義務あるものと認定する。

以上の次第であるから控訴人の本訴請求は右認定の限度において正当であるが、その余は失当であり、原判決を叙上の限度において変更の上、民訴九六条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 林歓一 宮本聖司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例